sayappieの森 【第三話】元気が出るご飯

sayappieの森
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先日、読売新聞社主催の「『あなたのおいしい記憶をおしえてください。』コンテスト」に応募した。エッセーを書きたいと思い続けていた私にとって、初めてのチャレンジ。

何度も書き直し、読み直し、投函。

結果発表当日。

朝イチで読売新聞を購入し、意気揚々と確認するも、私の名前はなかった。

「本当に受賞できると思ってたの?だって初めて応募したんでしょ?」

冷静な主人の問いかけ。

 

本当に受賞できると思っていた。

 

お恥ずかしながら。

だから本当に悔しい。

悔しい気持ちが収まらないまま、受賞作品を読む。

ああ、どれも素晴らしい(笑)

私には圧倒的に人生経験も執筆力も足りないなぁと、落選が腑に落ちてしまった。

受賞できなかった私の作品、せめてここでお披露目させてください。新聞にも雑誌にも掲載されることは叶わなかったけれど、どうか誰かに読んでもらえますように。

 

 

『元気が出るご飯』

幼い頃、我が家には定番メニューがあった。部屋で宿題をしていると、台所からいい匂いが漂ってきたのを覚えている。丼に盛られたご飯の上には豆腐、ワカメ、しらすを炒めて出来たトロっとした具が乗っていた。

「これ何ていう名前?」

「元気が出るご飯だよ」

変な名前……と思ったけれど、小学生だった私たち兄弟はこの丼が大好きだった。ハンバーグが良かった、カレーが良かった、と文句を言いながらもいつも競うように食べていた。

 

元気が出るご飯に喜んでいた幼少期を過ぎ、反抗期、思春期を経て、今では私も2児の母となった。子どもを連れて実家に帰る機会も増え、母と話す機会も増えた。たわいもない話から、子どもの頃に食べていたあの丼の話になった。

「あれね、包丁使わないからパパっと楽に作れたのよ」

と母は笑う。時短術を「元気が出るご飯」のネーミングでカバーするなんて母らしい、と思った。

 

ある日、息子が高熱を出した。幸い熱はすぐ下がったのだが、ずっと食欲がない。何か栄養のあるものを食べさせなくては、と真っ先に思いついたのがあの丼だった。息子の好きな豆腐としらすも入っている。作り方はつい先日聞いたばかりだし、運良く冷蔵庫に食材もある。

まずはフライパンにごま油を数滴垂らし、しらすとワカメを炒める。パチパチいい音が響き始めたら、豆腐を一丁そのまま投入。豆腐がほぐれ、しらすやワカメと程よく絡まったところに、顆粒だしと醤油で味付けをする。ホカホカのご飯の上にかければ、あっという間に出来上がり!ごま油の香ばしい匂いが食欲をそそる。

「美味しいね、これ何ていう名前なの?」

と聞く子どもに、私は自信満々でこう答える。

「元気が出るご飯!」

 

美味しそうに丼を頬張る息子の姿を見て、ふと昔を思い出した。体調が悪く寝込んでいた時、部活動で疲れた時、友達とケンカして落ち込んでいる時、この丼が出てきた。食欲がなくても、心がチクチク痛んでも、なぜかこの丼だけはスルスルと喉を通る。食べ終えると、少しだけ体も心も温かくなった気がした。

パパっと作れて簡単、でもそれだけじゃない。豆腐もワカメもしらすも栄養豊富なのに、お腹への負担は少なく消化にも良い。もちろん肉や魚は大好きだけれど、元気に食べられないときもある。そんな時でもこの丼は優しい味でお腹を満たしてくれた。

「今日は簡単メニューにしちゃおうかな」

と母は笑っていたが、自分も母親になった今だから分かることがある。あの丼に母からのメッセージが込められていたことも、今なら分かる。

「元気出せ、元気出せ」

私が息子への丼に込めたように、かつての母もご飯にその願いを込めたのではないだろうか。

食べ物は生きる力をくれる。「元気出しなさい」という言葉が重く負担になってしまう時も、食べることで伝わる気持ちがある。我が家のおいしい記憶は、母と私、私と息子を繋いでいる。

母のご飯で元気になれたように、今度は私が子どもたちへエールを届けたいと思う。

 

 

 

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